メニュー

樺細工職人 西宮正雄

Meister職人

樺細工職人 西宮正雄

No.01 Masao Nishinomiya

「自分自身が満足のいくものをつくる。
それが樺細工職人として、最も大切にしていることなんですね。」

樹皮を削るナイフと鏝。茶筒の芯となる経木に焼鏝で樹皮を貼ります。

困難を解決するのは自分自身、仕事が仕事を教えてくれる

樺細工職人になったのは20年ほど前。もともとは建具・飾り棚・箪笥などをつくる指物の職人だったんですよ。アルミサッシの普及で仕事が薄くなってきた頃、樺細工をやってみないかと誘われたんです。「建具ができたらそんなに難しいものじゃない」ってだまされてね(笑)。やってみたら、まぁ難しい。でも、ご縁があり伝統工芸師だった荒川慶一さんに師事することになって。荒川さんにはとても感謝しているんです。荒川さんのおかげで「上物」と呼ばれる高級茶筒をつくれるようになったんですね。

「型もの」の技法を覚えるのに10日、つくれるようになったのは約2ヶ月。ナイフなんかは指物の仕事で使っていたから、道具の扱いには慣れていたんです。覚えるのは比較的簡単なんだけど、修得するのはやはり大変で……。こういう場合はどうしたらいいのか、という場面に何度もぶつかり、その度に自分で研究して解決策を見出さなければならない。だから、仕事が仕事を教えてくれる感じですよね。技術力が最も問われるのは、山桜の樹皮を削る工程。節目などでボコボコしている皮をナイフで削っていくんですよ。削られた皮が茶筒の表情そのものになるから、色合いにムラやばらつきがでないよう慎重に作業する必要があるんです。

製作実演でもほとんど目にすることのない樹皮を削る工程。
天井近くでは採取した樹皮が干され、茶筒の木型も並べられています。

樺細工に用いられるのは、命を懸けて採取した山桜の樹皮

良質な山桜の樹皮の条件は、節目があまりなく、柔らかいもの。あめ皮やひび皮など樹皮には12種類ほどあるんだけど、どんな種類なのかは削ってみないと分からないんです。長く「樺剥ぎ(山桜の皮を採取すること)」を生業にしている方は分かるそうですが、我々はまだね。樺剥ぎは山桜の木に登って樹皮を取るわけだから、危険が伴うんですね。山に入ればスズメバチもいるし、熊に遭遇する可能性もある。さらに昔より皮が採れなくなっているから、購入するとなると非常に高い。だから自分で使う皮は自分で樺剥ぎをしているんだけど、売る気にはならないですね。それほど山桜の皮は貴重なもので、大変な難儀をして調達してくるものですから。

山田佳一朗さんがデザインされた輪筒は、山桜の無地皮、かえで、さくら、くるみをそれぞれ経木に巻いてつくった外側の筒を、大胆にもスパスパと切って構成されているんですね。樺細工は同サイズの茶筒でも、同じ木型からつくったものでないと筒と蓋が閉まらないんです。それなのに異なる樹種の素材を組み合わせて、ひとつの茶筒にするなんていう(笑)。職人の感覚では考えられない発想ですよ。でも、代表の藤木さんや山田さんの熱意にもほだされましてね、やってみたいって思ったんです。

伝四郎の誰もが「輪筒をつくるなら正雄さんしかいない」と感じました。
西宮工房。輪筒は『ニューヨーク・タイムズ』でも大きく紹介されました。

自らがつくった茶筒を喜んで使ってほしいから

いま「輪筒」をつくっているのは、息子の誠。現代的なデザインの伝統工芸品をつくるなら、若い人の方がいいんです。私は試作や完成にこぎつけるまでのアドバイスをしていました。何度も試作をつくって、試行錯誤の繰り返し。山田さんも一切妥協しませんでしたから(笑)。自分が満足のいくものをつくる。樺細工をつくるうえで第一に心掛けているのは、この点に尽きます。やっぱり自分が満足しないものをお客さんに渡したら、お客さんだって満足しないですよ。樺細工を知らない方でも分かると思うんです。それに「あれはちょっとまずかったな」って、悪い風にずっと心に残ってしまいますからね。

ものづくりは面白いですね。絵を描くことも好きで、指物職人時代からいろいろ製作してきたけれど、齢を重ねる毎に遊び心でものをつくれるようになってきました。自宅のテーブルを樺細工でつくったり、襖に鷹の画を描いたり、黒柿でクニマスを表現した茶筒をつくったり。先日もね、黒檀の素材を藤木さんからお預かりしたときは興奮しましたよ。本当に素晴らしい素材でしたから。樺細工は手を掛ければ掛けただけ、山桜の皮が応えてくれるんです。これからも手抜きをせず丁寧に、樺細工をつくり続けていきたいですね。

自宅には作品として製作した茶筒がズラリ。中央が黒檀の茶筒です。

Masao
Nishinomiya

西宮正雄さんは藤木伝四郎商店で取り扱う茶筒をはじめ、
さまざまな樺細工の製作を行っています。
確かな技術力と柔軟な発想、そして作家としての感性がいきる作品は、
多くの人々を魅了し続けています。

西宮正雄(にしのみや・まさお)

樺細工職人

西宮正雄(にしのみや・まさお)

1942年秋田県仙北市田沢湖町生まれ。16歳の時より指物職人としての仕事に従事。1995年、西宮工房を設立。現在、妻・照子さん、長男・誠さん、誠さんの妻・郁子さんとともに、「型もの」を中心とした樺細工の製作を行っている。